親子で楽しむクラシック(第21回)-オペラ「ヘンゼルとグレーテル」

文=飯尾洋一(音楽評論家)

親子で楽しむクラシック-- ファミリーで楽しめるオペラといえば、ドイツのエンゲルベルト・フンバーディング(1854-1921)が作曲した「ヘンゼルとグレーテル」でしょう。毎年、クリスマスから新年にかけて、世界中で盛んに上演される人気作品です。

 本来、オペラといえば大人の娯楽です。そのため、ファミリー向けの作品はきわめて限られています。その中で「ヘンゼルとグレーテル」はファミリー向けオペラの代表作といえます。なにしろ、あらすじはだれもが知っています。この童話に登場する「お菓子の家」ほど、子供心をワクワクさせてくれるものはありません。壁も窓も屋根も全部お菓子でできている! いったいどこから食べればいいのか……。

 グリム童話の多くは人間の暗い一面も描かれています。「ヘンゼルとグレーテル」も本来の話は、飢饉のために食べ物がなくなり、困った両親が子供たちを森で捨ててしまうという、なかなか残酷な一面が描かれています。

 しかし、フンパーディンクの「ヘンゼルとグレーテル」では、この残酷な個所が改変されています。台本を書いたのは作曲者の妹アーデルハイト・ヴェッテ(つまり、このオペラは本当の兄妹が共作しているのです)。

 物語中の父親は農民ではなく、ほうき職人です。母親は子供たちに森にいちごを摘みに出かけるように命じますが、子供たちは迷子になって、魔女が住むお菓子の家へとたどりつきます。心配した両親は子供たちを探しに森へ。兄妹は魔女を退治した後、両親と無事再会してハッピーエンドを迎えます。

 オペラでは、貧しい一家の「子供の口減らし」という暗いテーマは、きれいさっぱり一掃されています。オペラの初演は1893年12月23日、ドイツのワイマールででした。

 現代でも童話がソフトに改変される例は多くみられますが、すでに19世紀末のドイツでも同じように考えられていたことがよくわかります。オペラ劇場に子供たちを連れてくる両親にとって、「食糧がないから森に子供を捨てる親の話」など歓迎されなかったのでしょう。

 大作曲家であり名指揮者でもあったリヒャルト・シュトラウスの指揮で初演されて以来、このオペラはたちまち大成功を収めました。なんと最初の1年間に50以上の劇場で上演されたというのですから、まれに見る大ヒットといえるでしょう。

 音楽的にも親しみやすく、オペラになじみの薄い大人にとっても安心して聴ける作品になっています。子どもを捨てる親が登場しない、オペラ版「ヘンゼルとグレーテル」。親にとって都合がよすぎるでしょうか?

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