親子で楽しむクラシック(第20回)-フォーレ:組曲「ドリー」

文=飯尾 洋一(音楽評論家)

親子で楽しむクラシック(第18回)- 子供のために書かれたピアノ曲といえば、以前にこの連載でもご紹介したドビュッシーの「子供の領分」がよく知られています(親子で楽しむクラシック(第3回 )- 子供のための名曲)。

 今回、紹介するフランスの作曲家、ガブリエル・フォーレが作曲した組曲「ドリー」も、同じように幼い子供のために作曲された作品です。こちらはピアノ連弾のための組曲。実際に連弾で弾いてみたことがあるという方も、少なくないのではないでしょうか。

 「ドリー」とは、フォーレが親しくしていたバルダック家の幼い娘、エレーヌの愛称です。エレーヌが誕生日を迎えるたびに、フォーレは曲を贈り、この6曲からなる組曲が誕生しました。

曲を試聴する(NAXOS MUSIC LIBRARYより)
ガブリエル・フォーレ「ドリー」:http://ml.naxos.jp/work/3184434

 エレーヌの母親は、エンマ・バルダック。この名前に覚えのある方もいらっしゃるかもしれません。 エンマ・バルダックとは、後にダブル不倫の果てにドビュッシーと結婚した銀行家夫人であり、歌手でもあった人です。ドビュッシーの「子供の領分」は、彼とエンマとの間に生まれた娘のために作曲された作品でした。

 エンマは、かつてフォーレとも愛人関係にあったといわれています。フォーレはエンマのために歌曲集「優しい歌」を作曲し、またエンマの娘エレーヌのためには、この「ドリー」を作曲しました。フォーレはエレーヌのことをかわいがっていたために、「エレーヌは、実は夫ではなくフォーレとの間との子ではないか」などとという、根も葉もない噂まで立ちました。

 つまり、エンマ・バルダックという女性は、一人でフォーレの「ドリー」と、ドビュッシーの「子供の領分」という、わが子のために書かれた二大名曲を間接的に生み出したことになります(それぞれ父親は違うわけですが)。この場合、両作品は「姉妹作」の関係にあるといえばいいのでしょうか。あるいは、「異父姉妹作」とでも?

 フォーレの「ドリー」のなかには、猫らしきもの? が登場します。2曲目の「ミーアーウー」はネコの鳴き声、4曲目の「キティ・ワルツ」は子猫のワルツでしょうか。

 しかし、これはいずれも出版社の勘違いが生み出した「幻の猫」。2曲目の本来の題はまだ幼いエレーヌが兄ラウルを呼ぶときに、「メッスュ・アウル」と舌足らずになるのを表現したものでしたが、これを出版社が猫の鳴き声と受けとって「ミーアーウー」と直してしまいました。

 第4曲は、兄ラウルの飼っていた犬ケッティにちなんで「ケッティ・ワルツ」と題されていましたが、これも出版社が「キティ・ワルツ」に訂正してしまいました。兄と犬が2匹の猫に化けてしまったわけですが、でもなんとなく猫だと思って聴くと猫のようにも思えてくるのが音楽のおもしろいところですね。

アルバム
タイトル
フォーレ:組曲「ドリー」
演奏 ロバン=ボノー(ジャクリーヌ) ジョワ(ジュヌビエーブ)
URL http://www.amazon.co.jp/dp/B001QTMSW2

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