見つけた

[見つけた新刊絵本]森の本やさん(文:肥田美代子,絵:小泉るみ子,出版社:文研出版)

文=Pictio編集部

見つけた新刊絵本 新刊に巻かれた帯に「今、日本で、本屋さんのない町がふえています」と書かれています。確かに、以前に比べると本屋さんの数は減っていて、2014年11月の統計では、1万3736店になっています。2000年には2万1495店だったので、約8000店が減少しています。1年に600店近くが閉店している計算になりますね。それだけ減れば、近くで本を探すことも難しいかもしれません。

 今回は、そんな本屋さんのお話しです。タイトルは「森の本やさん」。森の奥に小さな本屋さんがあります。森に住む動物たちは、本屋の主人のくまじいさんが大好きです。みんな、本を探しにやってきます。かあさんリスは育児の本を探しに、きつねのあにきは、心が温かくなる本、みんな何か自分に必要な本を求めてきて、くまじいさんはぴったりの本を見つけてあげます。

 ところが、大あらしのせいで、本屋はぺちゃんこになってしまいます。くまじいさんも元気をなくしてしまうのですが、本屋がないと困ってしまう森の動物たちが相談して、、、というお話しです。

 対象年齢は、幼児から小学校中学年くらいまで。文章量は、内容を考えると、少しだけ多いページもあるかな、という気もしますが、伝えたいことがはっきりしていて、分かりやすいです。

森の本やさん

 著者は、肥田美代子さん。ほかにも、「山のとしょかん」「ふしぎなおきゃく」などの作品を出されています。文章は、ゆっくりと展開していきます。幼稚園のお子さんでも分かりやすいでしょう。また、一定のリズムで書かれていて、聞いているうちにゆったりと優しい気持ちになります。

 一方、絵を見ると暖色系の色遣いを基調としつつ、嵐の夜は暗い色と対比がいいですね。特に木の葉が丁寧に描かれていたり、嵐の夜、くまじいさんが本を守る顔の厳しさ、そして普段、本を探しに来る動物たちへの優しい顔つきなど、表情の豊かさに目を見張ります。小学校1,2年生の読み聞かせなどに向いていると思います。

 冒頭の本屋さんの話をもう少しします。以前に比べて本屋さんは、身近にある存在ではなくなりました。また、本にはカバーがかかり、立ち読みしようとしても、しにくい環境にもなっています。図書館があるからいいさ、という人も多いでしょう。でも、少し考えてみてください。

 大人であれば、近くになければ少し遠くの本屋で探すこともできるかもしれません。Amazonだってあります。でも、お子さんが、遠くの本屋まで行くことは現実的でしょうか。また、売れ筋とキャラクター関連の児童書や本が、申しわけ程度に並んでいる書店では本屋さんに愛着を持つのは、正直言って難しいでしょう。一瞬で飽きてしまう本しかない書店よりも、家電のおもちゃ売り場のほうがよほど魅力的です。

 本屋さんが生き残っていくには、本はおもちゃ以上に面白いということ、そして本当に気に入った本は、一生の友だちになり、時には自分を支えたり、励ましてくれる存在になり得るということを知ってもらわないといけません。それを教えることができるのは、本の面白さを知っている大人だけです。そして、それを知ったときに、必要なのは、自分の本を手に入れることができる本屋さんです。

 自分が乗っている自動車は、愛情を込めて愛車という言い方をします。また、ペットも愛犬や愛猫です。本も、愛読書です。でも、ゲームを愛ゲームとは言いません。またどれだけ、洗濯機を好きでも愛洗濯機とは呼びません。自分の気持ちを注ぎ込んでいるかという意味で、本は人にとってなくてはならない存在なのでしょう。

 自分の気に入った本に出会える楽しみというのは、本当にうれしいものです。それには、今まで読み継がれてきた良い本がきちんと置いてある本屋さんが身近にあり、じっくりと読んで選べる環境が必要です。この本を読んでいて、改めてそう感じました。

本の要素

本の題名 森の本やさん
作者 文:肥田美代子,絵:小泉るみ子
出版社 文研出版
価格 1300円+税
発売 2014年4月
対象年齢 幼児~小学校低学年
関連URL  文研出版

投稿日: 作成者: Pictio Editor カテゴリー: 見つけた新刊絵本

[見つけた新刊絵本]犬になった王子(文:君島 久子,絵:後藤 仁,出版社:岩波書店)

文=Pictio編集部

[見つけた新刊絵本]犬になった王子-- どの国にも、昔から伝わってきた物語があります。古い物語は、時代が変わっても、そのまま伝えられてきたり、あるいは、時代とともに新しい物語を生み出す元となったりしています。今回は、チベットの物語を題材にした絵本「犬になった王子」をご紹介しましょう。

犬になった王子 大むかし、チベットのプラという国に、アチョという名前の、勇敢で心の優しい王子がいました。そのころプラ国では、食べ物といえば、羊やヤクの乳と肉ばかりでした。

 けれども、「山の神リウダさまのところに行けば、おいしい穀物ができる種がある」という言い伝えがありました。

 これを聞いたアチョ王子は、「おいしい食べ物を、国じゅうの人々に食べさせたい」と思い立ち、種を求めて旅に出ることを決意しました。両親である王と王妃は、驚いて反対しましたが、王子はそれを押し切って出発しました。

 山の神が住むところへは、九十九の山と九十九の川を越えて行かなければなりません。途中、数々の危機や困難に遭いながらも、王子は山の神のもとにたどり着きました。山の神の教えを聞き、知恵を働かせ、勇敢な行動によって、王子は、恐ろしい蛇王の洞穴から、大麦の種を手に入れることに成功します。

 ところが、種を国に持って帰ろうと、いざ洞穴を飛び出したとたん、王子は蛇王に見つかってしまい、魔力によって犬の姿に変えられてしまいます。山の神が言っていた「心から愛してくれる娘」に、王子は出会うことができるのでしょうか……。

 チベット地方に伝わる民話を題材にした、壮大な冒険の物語であり、チベット人の主食ツァンパ(麦を乾煎りしてから挽いて粉にしたもの。バター茶などを加えて練り、ペースト状にして食べる)の原料である、麦の来歴を伝えています。

 文章を書かれたのは、中国文学や民話を長く研究され、中国などの児童文学の翻訳なども多く手がけられてきた君島久子さんです。この「犬になった王子」の話は、君島さんが、中国の民話集「白いりゅう 黒いりゅう」の中の一編として、1964年に紹介して以来、半世紀に渡って読み継がれてきました。長い物語なので、文章量も多いですが、言葉が耳にすっと馴染み、読む人を民話の世界に引き込んでいきます。

 絵を描いたのは、日本画家の後藤仁さん。「アジアの美人画」をテーマとする作品を描きつつ、国内外で活動されています。近年は絵本の原画制作にも力を入れ、絵本としては「ながいかみのむすめチャンファメイ」(福音館書店)に続き、今回の「犬になった王子」が2作目となります。今回はチベットへ取材などに行きつつ、2年ほどかけて1枚1枚と絵を描き上げていったそうです。

 描かれているのは、チベットの自然、そして少年や少女たち。墨や岩絵を使い、日本画の技法を用いて描かれている絵が、チベットの民話とうまく融合し、伝承の世界が表現されています。

犬になった王子 (c)後藤仁 2013犬になった王子 (c)後藤仁 2013
                                          (c)後藤 仁 2013

 この絵本の対象は、5,6歳からとなっています。実際に読んでみると、もう少し上の年齢になっても、読んでもらうのがとても楽しい絵本だと思います。何よりも、冒険が好きなお子さんにどうぞ。

 ちなみに、この物語は、宮崎駿さんが書かれた「シュナの旅」という本の下敷きになっています(シュナの旅は、だいぶ改変されていますが)。シュナの旅を読むと、映画の「ゲド戦記」や「もののけ姫」などにつながっていることを感じ取ることができます。長い間、語り継がれてきた物語は、こうして形を変えながら、いろいろな人の心に残っていくのかもしれません。

 

タイトル 犬になった王子
作者 文:君島 久子,絵:後藤 仁
出版社 岩波書店
URL http://www.iwanami.co.jp//hensyu/jidou/j1311/111242.html
出版日 2013年11月
価格 本体1800円+税
判型/ページ数 A4判変型/48ページ
対象年齢 5,6歳から

[修正履歴]記事掲載時、表の出版社名が間違っておりました。正しくは、「岩波書店」です。本文は修正済みです。お詫びして、訂正いたします(2013年12月9日18:24)。

 

絵を書かれた後藤さんの原画展が2014年に開催されます。朗読会なども開かれるそうです。原画を見る良い機会なので、ご興味がある方は、行かれてはいかがでしょうか。

展示会名 「犬になった王子」絵本原画展
日程 2014年1月29日~2014年3月2日
会場 教文館 子どもの本の店「ナルニア国」
〒104-0061 東京都中央区銀座4-5-1
連絡先 TEL:03-3563-0730
イベント 2014年2月2日14:00~後藤仁さんトーク&サイン会
展示会名 後藤 仁 絵本原画展
日程 2014年3月12日~2014年3月18日
会場 丸善 丸の内本店
〒100-8203 東京都千代田区丸の内1-6-4 丸の内OAZO
連絡先 TEL:03-5288-8881
イベント サイン会 2014年3月15、16日 11:00~16:00

 

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[見つけた新刊絵本]花びら姫とねこ魔女(作:朽木祥,絵:こみねゆら,出版社:小学館)

文=Pictio編集部

[見つけた新刊絵本]-- 児童向けの作品やファンタジーで評価の高い、朽木祥さんと、繊細な画風で子どもから大人まで根強いファンを持つ、こみねゆらさんによる物語です。

 挿絵に豊富にありますが、ページ数が多いので、児童書の範疇に入るのかな。タイトルは「花びら姫とねこ魔女」です。ねこ魔女という言葉は、珍しいですね。子ども向けの作品では、こういう言葉はとても大切ですよね。本屋さんで表紙を見て、タイトルに惹かれました。

image さて、ストーリーです。昔、ある国のお城に、だれも見たことがないくらい美しく、しかし春の初めの天気のように気まぐれでわがままなお姫さま、花びら姫がいました。花びら姫は、自分が着るものから食べるものまで、すべてのものが“特別”でなければならない、と思っていました。

 ところが、年に一度の大きなお祭りの夜のこと、花びら姫は、お城を守っている小さな妖精たちをおこらせてしまいます。すっかり腹を立てた妖精たちは、花びら姫にいちばん恐ろしい魔法をかけてしまったのです。

 妖精たちの呪いを解くカギは“特別な猫”にあると聞いた花びら姫は、その猫を探して回ることにしました。花びら姫にとっての特別な猫は、はたして見つかるでしょうか?

 お城で優雅に暮らすお姫さま、妖精、魔法、荒れ果てた石の館……といった、王道・古典的なモチーフが登場し、アンデルセンやグリム童話のような趣きさえある、正統派のファンタジーと言えるでしょう。毎日を忙しく過ごす日本の子どもたちの心を連れ出して、いっとき、中世の異国の地にいざなってくれるかもしれません。

 それでいて、いまの子どもたちの心に響く現代的なセンスも、しっかり持ち合わせた作品だと思います。特に猫好きなお子さんと大人には、たまらないエッセンスが入っています。

 人間、妖精、猫のほか、「魔女」に仕える、カエル、トカゲ、ヘビ、ムカデたちの”大事な脇役”の存在も絶妙です。「平べったい顔をした商人たち」が、クトゥルフ神話を思い起こさせるなど、ぞっとするような不気味さも、ちらりと顔をのぞかせます。

 全部で80ページと、かなりのボリュームがありますが、物語の骨格がしっかり構築され、細部の設定まで練られています。物語が好きなお子さんであれば、最後までしっかり食いついてくれるでしょう。ページをめくるたびに、この先はいったいどうなるんだろうとワクワクしながら、飽きることなく最後まで読ませてしまう本だと思います。

 寝る前に、お子さんに本を読んであげる方は多いと思います。この物語は話の展開が分かりやすく、起承転結のような流れがよく分かるように書かれています。ですから、区切りのよいところで「続きは、また明日ね」と、数日かけて読むのにもおすすめです。きっと、ワクワクしながらよい夢を見ることができるのではないかと。

 絵は、作品の世界観・イメージにぴたりと寄り添い、繊細なタッチで描かれています。本全体の半分が絵に充てられ、カラーとモノクロを合わせてかなりの点数にのぼります。これは、すごい作りだなぁ。

 この絵本には88匹もの猫が登場しますが、それぞれに実在のモデルがいるそうです。2012年秋に、ツイッターで「自分の特別な猫大募集!」をかけたところ、大反響があり、多くのかわいい猫の写真が送られてきました。その写真を見ながら、こみねさんが一匹ずつ描いていったそうで、飼い主には「うちの猫」だとわかるということです。

 朽木さんとこみねさんは、お互いの作品が大好きというファン同士の関係だったそうで、一緒に絵本を創りたかったという、長年の思いがこの作品で実現しました。

 ファンタジーでありながら、「人にとって“特別なこと”とは何なのか」という、普遍的なテーマ・問いかけが、読んだ後にも心に残る本でした。

 文章に出てくる漢字を見ると、中学で習う字も出てきますが、難しい漢字にはルビが振られています。ただ、ページ数も多めなので、自分で読むのであれば、小学校3年生くらいからになると思います。物語はとても分かりやすいものなので、読んでもらう時は、年長さんからでもいいかもしれませんね。

タイトル 花びら姫とねこ魔女
作者 作:朽木祥,絵:こみねゆら
出版社 小学館
URL http://www.shogakukan.co.jp/books/detail/_isbn_9784097265238
出版日 2013年10月
価格 本体1600円+税
ページ数 80ページ
対象年齢 小学校中学年から

投稿日: 作成者: Pictio Editor カテゴリー: 見つけた新刊絵本