[こころに残る絵本]ぼくはおこった(作:ハーウィン・オラム,絵・訳:きたむらさとし,出版社:評論社)

文=Pictio編集部

心に残る絵本 ある晩のことです。アーサーという男の子が、テレビの西部劇を夢中で観ていました。最後まで観たかったのですが、途中なのに、お母さんが「もう遅いから寝なさい」と言います。アーサーは「いやだ」と怒りました。

 お子さんがいらっしゃるお父さんやお母さんは、そんな時はどうされますか? アーサーのお母さんは「怒りたければ怒りなさい」と言いました。

image それならと、アーサーは怒りを爆発させます。アーサーの怒りは、尋常ではありませんでした。家の中に雷雲が湧いて稲妻が走り、ヒョウが降りました。お母さんは「もう、じゅうぶん」と言いましたが、アーサーの怒りは収まりません。嵐が吹き荒れ、屋根と煙突と教会を吹き飛ばしてしまいました。

 今度はお父さんが、「もう、じゅうぶん」と言いますが、怒りはますます激しくなっていきます。アーサーが住む町も、国も、そしてついに地球までもが……!?

 言葉で簡単に説明すると、子どもの心象風景を思いきり誇張して表現したストーリー、といえばそうなのですが、それにしてはあまりにすさまじいアーサーの怒りです。「あり得ない!」というほど、何もかもを徹底的に、ダイナミックに破壊しつくします。

 子どもというのは、ときに理不尽なふるまいをするものですが、それは私たち大人から見たときの話であって、当の子どもから見れば、大人たちの言うことの方が、まったく理不尽なのでしょうね。

 大人は自分の言うことを聞いてくれないし、理屈では勝てないし、そもそも自分が思っていることをうまく説明できない…そんなもどかしさを、怒りという形で表すしかない子どもたちの気持ちを、この作品はうまく代弁しているのではないでしょうか。

 怒っているうちに、そもそもどうしてそんなに腹を立てたのかを忘れてしまうというのも、理屈ではなく直感を行動原理として生きている子どもたちには、ありがちなこと。そして大人のみなさんも、子ども時代には多かれ少なかれそんな経験をしたのではないかと思います。

 まぁ、この絵本を読み自分のお子さんを見ると「あぁ、そうそう、あるある」と思う方がいるかもしれませんし、自分の子ども時代を振り返って「あぁ、そうそう、あったあった」と思う方がいる本かもしれません。

 原作は南アフリカ出身でロンドンに在住のハーウィン・オラムさんが書きました。そして翻訳と絵を、同じくロンドンに住むきたむらさとしさんが担当したという、ちょっと珍しいスタイルで制作されています(同じコンビによる『やねうら』という作品もあります)。きたむらさんにとっては、これがデビュー作となりました。

 絵は、緻密ではありますが、輪郭線を明瞭に描くスタイルです。ポップで洗練されたタッチによって、とにかく物や町が破壊されるというこの作品を、重く暗くなりすぎないよう、うまく避けていると思いました。

 本作は、初め1988年に佑学社から発行され、その後1996年に評論社から再刊されました。絵本にっぽん賞特別賞、マザーグース賞を受賞しています。

本のタイトル ぼくはおこった
作者 作:ハーウィン・オラム,絵・訳:きたむら さとし
出版社 評論社
出版日 1996年1月
価格 本体1300円+税
判型/ページ数 23.6×20.6cm/32ページ
URL  http://www.hyoronsha.co.jp/
対象年齢 出版社のWebサイトには特に記載無し、おそらく小学校低学年から

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