[絵本]こねこのぴっち(作:ハンス・フィッシャー,訳:石井桃子,出版社:岩波書店)

文=まきむら あきこ

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 ハンス・フィッシャーは、1909年スイスのベルンに生まれ、美術学校を出たのち、舞台美術や版画、壁画、イラストなど多方面で活躍した人です。晩年、体を壊して、静養先していましたが、アトリエでこどもたちのために、手作りの絵本を描き始めます。末娘のために描いた絵本が、「こねこのぴっち」です。

こねこのぴっち 日本では、1954年に「岩波の子どもの本」として出版されました。そして、1987年に装丁などが異なる大型本が発売され、現在では、両方の絵本が併売されています。

 小さな三角屋根の家の前、年季の入ったベンチに腰かけた、りぜっとおばあさんが、編み物をしている場面から、物語は始まります。

 多くの動物たちと平和に暮らしている、りぜっとおばあさんには、特にかわいがっている犬の「べろ」と、2匹の親猫「まり」と「るり」から生まれた5匹の子猫たちがいます。その5匹の中で、一番小さくて、頼りなげな子猫の「ぴっち」が物語の主人公です。

 にぎやかに遊びまわる兄弟たちとは違い、ぴっちはいつも何かを考えている様子です。でも何をどうしたいのか、ぴっちにもわからないのです。わからないまま、ぴっちはおばあさんの家を抜けだし、仲間の動物たちと関わりあいながら、自分の求める何かを探していきます。今風にいえば、自分探しの旅でしょうか。

 小さな冒険を重ねたぴっちは、最後には、おばあさんたちの助けを借りて自分の家に戻ってきます。無理がたたり、すっかり体を壊したぴっちですが、周囲の暖かく深い愛情に包まれて、自分の居場所をみつけていく、というお話です。

 この絵本の素晴らしいところは、全編にわたり、「愛」が溢れているところです。

 特に、関わりあった動物たちが、列をなしてお見舞いに駆けつける場面や、快気祝いのガーデンパーティの場面は、作者のハンス・フィッシャーが自身の子どものために描いた想いが、尽きることのない泉のように、溢れでてくるのを感じます

 冒険の結果、家にもどってきたぴっちですが、この絵本は、身の丈にあった生き方を示唆するという単純なものではないように思います。特に保護者の管理下にある幼き者たちには、絶対的に唯一無二な愛情が必要であり、その土台を礎にして、時がきたならば再度の冒険に旅立っていく勇気と力になるのだ・・そんなメッセージがあるような気がします。

 オズの魔法使いで主人公のドロシーが冒険の果てに、

「There’s No Place Like Home(おうちほどいいところはない)」

と心から願ったように、ぴっちも暖かい愛情に包まれ、同じような想いにたどりつきます。

 その様子をみて、読み手の私たちも、心の奥に深い根を下ろすような安心感を得るのです。

 そしていつの日か、ぴっちも、自分にしかできない何かを見つける準備をしながら、成長していくのでしょう。そんないつかを、楽しみにしたい、そんな気分にさせる絵本です。対象年齢は5歳くらいのお子さんから、ではないかと思います。

タイトル こねこのぴっち
著者 作:ハンス・フィッシャー,訳:石井桃子
出版社 岩波書店
URL http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/11/0/1105950.html
出版日 1987年11月
価格 本体1500円+税
ページ数 30ページ
対象年齢

カテゴリー: こころに残る絵本 タグ: , , , , , , パーマリンク