[絵本]ちいさいおうち(作:バージニア・リー・バートン,翻訳:石井 桃子,出版社:岩波書店)

文=まきむら あきこ

絵本のパティオ  「ちいさいおうち」は、「いたずらきかんしゃ ちゅうちゅう」を描いた作者バージニア・リー・バートンの作品です。「いたずらきかんしゃ ちゅうちゅう」は長男のために、「ちいさいおうち」は長女のために描いたとされています。親から子に伝えたい想いを、こんな風に形に現せる才能はなんともうらやましい限りです。そして、絵本として残されたことで、後世の私たちもバージニアのこどもたちと同じように、その想いを受け継ぐことができます。

「ちいさいおうち」  この絵本の表紙には、空の青さを思わせる水色の背景の中、円をモチーフにデザインされた花と木々に囲まれ、幸せそうな顔をした家が描かれています。煙突の煙の中に浮かぶウィンクした太陽が「さぁ、早くこのお話を読んでくれたまえ」と、せかしているようです。

 お話の舞台は、今から150年前後さかのぼった時代のアメリカです。緑豊かな田舎の小高い丘の上に、小さいけれど、堅牢に建てられた「ちいさいおうち」には、若い夫婦と子供たちが住み、幸せな時間がゆっくりと流れていました。

 太陽は東から昇り、西に沈みます。月は満ちては欠けるを繰り返し、そして春夏秋冬、季節が巡ってきます。ちいさいおうちは、そんな繰り返しの自然の営みを、丘の上でただ静かにずっと見守り続けていました。自分だけは変わらない安心感と、ほんの少しの寂しさを感じていたのかもしれません。

 しかし、ちいさいおうちにも、急激な時代の変化が押し寄せる日がやってきます。道が掘り起こされ、舗装された道路ができ、車が走り、次々と大きな建物が建っていきます。

 「ちいさいおうち」を原作として映画化され、絵本も出版されている「小さな家」では、キャラクターデザインしたメアリー・ブレアの手により、この時代の変化に翻弄され、驚き、悲しみ、そしてあきらめる家の表情が感情豊かに描かれています。

 ところが、本家の「ちいさいおうち」は、どんな状況になっても、窓に見立てた目を見開くでもなく、ましてや涙を流すでもなく、ただただ感情を見せず、淡々と環境に順応していくそぶりをみせます。

 でも、のどかな田舎が大都会となり、星も見えない明るく騒音に満ちた夜の中で、一人ぼっちになった「ちいさいおうち」は本当の気持ちに気が付いてしまうのです。

 アメリカの優れた絵本に贈られるコールデコット賞を受賞した本作は、日々の変化していく自然と、変わらぬものの対比を描く過程で、大きな時の流れの中で決して変化してもどらないものと、取り残されていくものの悲しみを描いています。たんに、変化していく強大な力を悪とするのではなく、「変わらないものを許容する社会」を望む作者の願いがこめられているように思えます。

 長い間ひとりぼっちだと思っていた「ちいさいおうち」が、ずっと彼方の場所から月や太陽に見守れていたように、共に生きるということは何かを、改めて考えさせられる絵本だと思います。

タイトル ちいさいおうち
作:バージニア・リー・バートン
訳:石井 桃子
出版社 岩波書店
価格 672円(大型サイズは1680円)
ページ数 40ページ
対象年齢 4,5歳以上

カテゴリー: こころに残る絵本 タグ: , , , , パーマリンク