[見つけた新刊絵本]黄金の夏休み(作:最上一平,絵:伊藤秀男,出版社:文溪堂)

文=Pictio編集部

newbooks4 今回、紹介するのは少し懐かしい感じがする「黄金の夏休み」という絵本です。テーマは夏休み。最初に、「ん? この時期に夏休みの絵本なの?」と思いましたが、読んでみると時期は関係ない絵本でした。とくに読んであげる大人にとっては。。。

 舞台となる時代は今より少し前、昭和の時代。作者の最上一平さんの出身地である東北の山村をモデルにしたと思われる、小さな村を舞台に、ひと夏の少年の輝かしい経験が描かれます。主人公は、におい、音、吹く風……、五感のすべてを使って、「山」の魅力を存分に味わう少年。

image 夏休み、ぼくはバスを二度乗り継ぎ、半日近く歩いて、大沼という、山間にある小さな村に行きます。豊かな自然の中で、大好きな人たちに囲まれて、夏のひとときを過ごすのが、ぼくは楽しみなのです。おんちゃん、おばちゃん、3人の従兄たち……。

 4歳上の従兄、「正広ちゃん」にくっついて、ぼくは山の中で遊びます。きつねの形をした沼、何百年も生きている杉の並木と神社、山のてっぺんにある田んぼと畑、赤スモモの木陰にある土手……。

 正広ちゃんは、何でも上手にでき、いろんなものを作ることができました。ぼくにはまだ難しい本も、読んでいました。

 お盆になると、村の広場にはやぐらが組まれて太鼓が鳴り、村を離れていた人たちがみんな帰ってきて、お祭りが開かれます。そして、みんなに見送られながら、ぼくが大沼から帰る日がやってきました――。

 山の自然は、少年を温かく優しく迎え入れてくれますが、同時にそれだけでなく、ときには怖く厳しく、また暗く窺い知れない「闇」の部分をも秘めているという、いろいろな面を見せてくれます。

 しかし、そんな危険をはらんだ場所でも、4つ上の従兄について行けば大丈夫。少年にとって従兄は、何でもできて自分を守ってくれる絶対的な存在であり、そしていつかは追いつきたいと思う、憧れの対象でもあるのです。

 文章は「楽しい」「わくわくする」「(帰るのは)さびしい」といった、少年の内面を直接的に表す語を避けて、具体的なできごとを少年の視点で綴っていくという、やや抑えた文体ですが、かえって少年の気持ちが雄弁に伝わってきます。そう、「ぼく」の気持ちは、単純にひとことで言い表せるようなものではないのでしょう。

 伊藤秀男さんの筆による絵は、水彩による色の重なり、にじみやかすれを生かした、骨太でダイナミックなタッチ。青々と生い茂る山の木々、川や沼の澄んだ水と、光の透過や反射、自然に生きる鳥獣たちの存在感や息づかいまでもが、思い出されてくるような、そんな感じの絵です。

 地方の農村・農家の風物も、ていねいに描き込まれています、ある1場面だけには、あえて誇張した表現を用いているのも、少年の心象風景を表していて、とても効果的です。

 「ぼく」という一人の少年だけの、きわめて個人的な体験を描きながら、言葉と絵の力によって、時代背景や個人を超えた、普遍的な成長物語となっています。大人には少し懐かしく感じる絵本、今のお子さんにはどのように感じられるのでしょうか。

タイトル 黄金の夏休み
作者 作:最上一平,絵:伊藤秀男
出版社 文溪堂
URL http://www.bunkei.co.jp/
出版日 2013年11月
価格 本体1500円+税
判型/ページ数 A4判変型/32ページ
対象年齢 小学校中学年から

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