親子で楽しむクラシック(第3回)-子供のための名曲

文=飯尾 洋一(音楽評論家)

music クラシック音楽の名曲には、子供を題材にした作品がたくさんあります。 親子で聴いて楽しむ作品もあれば、子供の世界を大人の視点から描いたものもあります。もちろん、子供が演奏することを前提にしたやさしい作品もあります。

そんな子供のための名曲の中で、いちばんの傑作は?

image あえて選ぶとすれば、ドビュッシーの「子供の領分」でしょうか。この曲集は、ドビュッシーが3歳の娘シュシュのために書いたピアノ曲です。3歳ですので、子供に演奏させるための曲ではありません。大人が描いた子供の世界ともいえますし、数年後に娘に聴いて楽しんでもらえることを願って作曲したようにも思えます。

 作品は6つの小曲で構成され、それぞれに気の利いた題材が取り上げられています。タイトルを順に挙げてみましょう。第1曲「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」、第2曲「象の子守歌」、第3曲「人形へのセレナード」、第4曲「雪は踊っている」、そして第5曲は「ゴリウォーグのケークウォーク」です。

 もっとも有名なのは、最後の「ゴリウォーグのケークウォーク」でしょうか。ゴリウォーグとはフローレンス・アップトンの絵本に登場する男の子のキャラクターで、日本では「ゴーリー」と呼ばれています。このゴーリーが、黒人ダンスのケークウォークを、ユーモラスに踊る陽気な作品です。

 第1曲の「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」は、曲名がずいぶん難しそうですが、これはピアノの練習曲集の名前に由来します。子供が練習曲に取り組んでいる様子を描いているんですね。最初はマジメに弾いていた子供が、しばらくすると飽きてきて、気が散っていく。でも最後はまた一生懸命に練習すして「さあ、やっと終わった!」と元気を出す。そんな気まぐれな子供の描写がたいへん巧みです。

 作曲家ドビュッシーという人は、男性としてはあまりほめられたものではないかもしれません。女性関係のトラブルが多く、捨てた恋人が自殺騒動を起こすというスキャンダルを、なんと生涯に2度も起こしています(それぞれ別の女性です)。

 しかし1905年に不倫関係にあったエンマ・バルダックの間に女の子が生まれると、彼の生き方も変わります。43歳で初めて人の親となったドビュッシーは、娘を溺愛します。この娘シュシュのために作曲したのが「子供の領分」。楽譜には「かわいいシュシュへ。お父さんはこんな曲を書いてしまったよ」と娘への献辞を添え、表紙のデザイン画まで自ら描いたほどですから、どれだけ娘のことをかわいがっていたのか、よくわかります。

  • 今回の参考音楽
  • ドビュッシー:子供の領分、前奏曲集第1巻
    アルトゥーロ・ベネデッティ=ミケランジェリ(ピアノ)
    ユニバーサル ミュージック UCCG5102
    http://www.hmv.co.jp/product/detail/2503116

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