こころに残る絵本

[こころに残る絵本]じごくのそうべえ(作:田島征彦,出版社:童心社)

文=Pictio編集部

【心に残る絵本】 上方落語に「地獄八景亡者戯(じごくはっけいもうじゃのたわむれ)」という作品があります。食あたりで死んだ男があの世へ行く途中、連れができて仲良く三途の川を下ります。賽の河原を通って、閻魔大王に地獄行きの判決を出されるのですが、熱湯の釜に放り込まれたら山伏が呪文を唱えてぬるま湯に、針の山に登らされたら軽技師がみなを担いでひょいひょいと、とあの手この手で罰をのらりくらりと切り抜けます・・・まぁ、落語なのでオチまではやめておきますが。

じごくのそうべえ この演目、落語としてはスケールが大きいもので、長いものだと1時間ほどになります。これを作家の田島征彦さんが絵本として、子どもにも分かるように仕立てたのが、今回紹介する「じごくのそうべえ」です。2015年3月に鬼籍に入られた桂米朝さんが演じていた地獄八景亡者戯をもとにしています。もちろん、そのままではなく、お子さんにも分かりやすいように変わっています。

 まず、出てくるのは軽業師のそうべえ。「とざい、とうざい。かるわざしのそうべえ、一世一代のかるわざでござあい」と口上を述べて綱をわたる最中に落ちて死んでしまいます。気がつくと、そこはえんえんと続く暗い道。火の車にのせられると、山伏のふっかい、歯医者のしかい、医者のちくあんの3人と知り合います。4人で三途の川をわたって閻魔大王の元へ。全員とも生前にろくなことをしていないと、地獄行きを命ぜられます。

 4人は糞尿地獄や針の山になげこまれたり、人を食べる人呑鬼にも飲み込まれます。さて、そうべえたちはどうなるのでしょうか。あとは読んでのお楽しみ、ということで。

 文章は落語調で、テンポ良く進んでいきます。文章は関西弁ですね。そして絵は、太い輪郭で迫力があり、最初のうちは地獄の怖さを感じることができます。特に見開きで描かれている、火の車と人呑鬼の絵は圧巻です。怖いといえば怖い。しかし、読み進むうち文章の軽妙さと合わさって、だんだん怖さが薄れてきます。怖さや人間の小ささなどを上手く表現していますね。そうそう、話はオチつきです。でも、お子さんが読んでも最初は分からないかも。

 単に子どもを怖がらせるだけ、あるいは不安がらせる地獄の絵本もありますが、恐怖心で子どもをコントロールするよりも、「地獄だってどこだって、怖くなんかないじゃん」と自分で考えることができる子どもに育つほうが、いいかなと思います。そんなわけで地獄を描いている絵本なら、この「じごくのそうべえ」をおすすめします。

 元は落語とあって、読み聞かせに本当に向いています。読み聞かせに必要な時間は12分ほど。地獄が出てくるので、小さいお子さんには怖いはずなのですが、男女を問わず誰にでも楽しめます。対象年齢は、4,5歳からとなっていますが、オチも含めて考えると小学校低学年からになると思います。

 第一回絵本にっぽん賞を受賞しています。

本の題名 じごくのそうべえ
作者 作:田島征彦
出版社 童心社
発行日 1978年5月
価格 1400円+税
ページ数/判型 25×25cm/40ページ
対象年齢 4,5歳から
関連URL 童心社

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[こころに残る絵本]セロひきのゴーシュ(作:宮沢賢治,絵:茂田井武,出版社:福音館書店)

文=Pictio編集部

 童話作家であり、詩人でもあった宮沢賢治が亡くなったのは、まだ38歳の時。1933年のことでした。それから、すでに80年以上が経過していますが、宮沢賢治の作品は今でもよく読まれています。

 賢治は多くの作品を残していますが、「セロひきのゴーシュ」は、1926年、宮沢賢治が31歳の時に書かれたと言われています。それは、彼が花巻農学校の教師を辞めた頃で、賢治はチェロを持っており、その経験が作品にも生かされているとされています。どうやら、あまりきれいな音が出なかったところも似ているようです。

 さて、宮沢賢治の作品は、なかなか絵本にしにくいと言われています。それは、文章が幻想的で、かちっとしたイメージを作りにくい、あるいはイメージの質が高すぎて作品化しにくいためです。内容的には平易なため、絵本になっているものも多いのですが、成功したと見なされている作品は少ないのです。

 セロひきのゴーシュも、賢治の作品の中では現実的な設定であり、イメージが結実しやすいので、以前から何度も絵本が作られてきました。その中にあって、茂田井武氏が描いたセロひきのゴーシュは、それらの作品と比べて、文章を高いイメージで絵に結実させている傑作だと言われます。

serohiki さて、あらすじです。ゴーシュは町の活動写真館でセロ(チェロ)を弾く係でした。けれどもあんまりじょうずでないという評判でした。それどころか、楽手の中ではいちばん下手だったので、いつでも楽長にいじめらているのでした。

 ある日の練習で、思いきり楽長に酷評されたゴーシュは家でも練習を続けています。すると、夜中に三毛猫が訪ねてきます。怒鳴っているゴーシュに、三毛猫は言うのです。

「先生、そうおおこりになっちゃ、おからだにさわります。それより、シューマンのトロメライをひいてごらんなさい。聞いてあげますから。」

「なまいきをいうな。ねこのくせに」

 こんな調子です。そして、次の日の晩は、鳥が訪ねてきます。鳥は、ゴーシュからドレミファを習おうとしますし、その次の日に来た、たぬきの子はゴーシュとセッションを、そして、また次の日はネズミの親子が病気を治してほしいとやってきます。どんどん続いていく、文章のリズムと、場面転換はほんとうに面白い。そして、コンサートの日を迎えるのですが、ゴーシュは上手に弾けたのでしょうか。

 今の絵本なら、コンサートを首尾よく成功させるという形で終わるのかもしれません。でも、宮沢賢治は少し違います。もっと、違うことを伝えたかったんですね。対象年齢は小学校低学年からとなりますが、より大きいお子さんにも読んでほしい作品です。

 文章も面白いですが、絵も大きな魅力です。ふてぶてしく、とぼけた感じの三毛猫、演奏中に感じるような、ぐるぐるしている感覚、ゴーシュがセロを抱えて帰る夜の田園風景。文章では、ぼんやりと頭に描いているイメージが、絵を見たときに「あぁ、なるほど、これだね」と文章と絵が一体化して、ずれなく心に入り込んできます。
 
 どのシーンも素朴で、そこはかとなく暖かみがあり、でも少しだけ寂しい感じもあります。いろんな感情が詰め込まれた絵を、小さい時に見ることができるお子さんは、とても恵まれていると思います。原画を見る機会は、なかなかないかもしれませんが、本とはまた違った鮮やかな色遣いで息をのみます。

 このセロひきのゴーシュが最初に世に出たのは、福音館書店の「こどものとも」で出されました。この時は、ページ数の関係もありダイジェスト版でした。しかし、単行本として出すにあたり、フルテキストの形として出版されました。編集を担当した松井直氏の著作を読むと、茂田井氏はこの作品で命を縮めることになったとも書かれています。

 何度も何度も読み返していると、どの絵も渾身の力を込めて描かれたことを感じ取ることができます。いい加減に見ることを許さない絵とでも言うのでしょうか。少し長いお話ですが、是非、読んでみてください。

本の題名 セロひきのゴーシュ
作者 作:宮沢賢治,絵:茂田井武
出版社 福音館書店
発売日 1966年4月
価格 1100円+税
関連URL 福音館書店,茂田井武美術館

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[こころに残る絵本]ふるやのもり(再話:瀬田貞二,画:田島征三,出版社:福音館書店)

文=Pictio編集部

 人は不思議なもので、怖い話や不思議な話に飛びつきます。子供のころに、どうしても怖い話を聞きたくて、トイレに行けなくなった体験をお持ちの方は少なくないでしょう。

もう一つ、小さいお子さんが大好きなのは笑い話。こちらも、昔話の定番ですね。今回、紹介する「ふるやのもり」は、怖い話があり、そこに笑い話が加わった最高級の昔話です。元は岩手県に伝わる昔話だと言われています。

image むかし、あるむらのはずれに、じいさんとばあさんが住んでいます。ある雨の降る晩のこと、うまどろぼうがそっと忍び込んできます。子馬を盗みにきたのです。そして、家には、オオカミも子馬を食べようと忍び込んでいるのでした。

でも、どろぼうとオオカミがいるとも知らず、じいさんとばあさんは、こわいものの話を始めます。

そして、どろぼうもオオカミも怖いけれど、もっとものがある、それは”ふるやのもり”だと言うんですね。さて、それは一体何なのか。話はさらに進んでいき、ここにサルも加わって、最後は笑い話で終わります。

絵を若い頃の田島征三さんが描かれています。暗い色使いが怖い話をより怖くしています。そして絵の勢いが、話の展開にぴったりです。

読み聞かせでもよく読まれているお話ですが、今は雨漏りのする家はなかなかないですね。キャンプなどで雨漏りの経験でもしていないと、おもしろさがダイレクトに伝わらないのかもしれません。

本のタイトル ふるやのもり
作者 再話:瀬田貞二,絵:田島征三
出版社 福音館書店
出版日 1965年1月
価格 本体800円+税
対象年齢 4歳から
判型/ページ数 20×27cm/28ページ
関連サイト 福音館書店

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