親子で楽しむクラシック

親子で楽しむクラシック(第22回)-オッフェンバック「天国と地獄」序曲

文=飯尾洋一(音楽評論家)

親子で楽しむクラシック(第22回)-オッフェンバック「天国と地獄」序曲  オッフェンバックの名前を知らない人でも、この曲の有名なメロディはだれもがご存知でしょう。「天国と地獄」序曲の終盤に登場する軽快なギャロップ(テンポの速い楽曲)は、「カンカン」のニックネームでも知られています。

 日本では運動会で流れる定番曲としても知られていますね。文明堂のカステラのCMで使われるあの曲(カステラ1番、電話は2番……)といえば、おわかりいただけるでしょうか。

 作曲者のオッフェンバックは1819年の生まれ。陽気でユーモアにあふれた音楽によってオペレッタ(軽い内容のオペラ)の分野で活躍し、時代を代表するヒットメーカーとして人気を呼びました。特にこのオペレッタ「天国と地獄」(原題は「地獄のオルフェ」)はパリで大評判となり、作曲者を、時代の寵児に押し上げました。

 では「天国と地獄」とは、どんなオペレッタなのでしょうか。実はこの作品はシャレの利いたパロディ作品です。元ネタとなっているのは、ギリシャ神話のオルフェオの物語。妻エウリディーチェの死を悲しむ夫オルフェオが黄泉の国へ、妻をとりもどしに行くというのが本来のストーリーです。

 しかしオッフェンバックの作品では、オルフェオとエウリディーチェの間柄は最初から冷え切っています。夫も妻も浮気中。オルフェオはエウリディーチェがあの世へ旅立ち小躍りするも、世論から非難されて、世間体のためにしぶしぶ妻をとりもどしにいく……といった毒気のあるストーリーになっています。

 この曲をさらにパロディに仕立てたのはサン=サーンス。組曲「動物の謝肉祭」のなかの一曲「亀」では、「天国と地獄」のギャロップが超スローテンポで演奏されます。あんなに景気の良い活発な曲を使って、のんびりとした「亀」を表現しようというのがサン=サーンス流のウィット。パロディのパロディなんですね。

 身も蓋もない大人の本音が描かれた「天国と地獄」。この曲が子供たちの運動会で使われているというのも、なかなか味わい深い光景ではないでしょうか。

タイトル 「オッフェンバック/序曲集」image
演奏 指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
URL http://www.amaazon.co.jp/dp/B00ATRPGCG

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親子で楽しむクラシック(第21回)-オペラ「ヘンゼルとグレーテル」

文=飯尾洋一(音楽評論家)

親子で楽しむクラシック-- ファミリーで楽しめるオペラといえば、ドイツのエンゲルベルト・フンバーディング(1854-1921)が作曲した「ヘンゼルとグレーテル」でしょう。毎年、クリスマスから新年にかけて、世界中で盛んに上演される人気作品です。

 本来、オペラといえば大人の娯楽です。そのため、ファミリー向けの作品はきわめて限られています。その中で「ヘンゼルとグレーテル」はファミリー向けオペラの代表作といえます。なにしろ、あらすじはだれもが知っています。この童話に登場する「お菓子の家」ほど、子供心をワクワクさせてくれるものはありません。壁も窓も屋根も全部お菓子でできている! いったいどこから食べればいいのか……。

 グリム童話の多くは人間の暗い一面も描かれています。「ヘンゼルとグレーテル」も本来の話は、飢饉のために食べ物がなくなり、困った両親が子供たちを森で捨ててしまうという、なかなか残酷な一面が描かれています。

 しかし、フンパーディンクの「ヘンゼルとグレーテル」では、この残酷な個所が改変されています。台本を書いたのは作曲者の妹アーデルハイト・ヴェッテ(つまり、このオペラは本当の兄妹が共作しているのです)。

 物語中の父親は農民ではなく、ほうき職人です。母親は子供たちに森にいちごを摘みに出かけるように命じますが、子供たちは迷子になって、魔女が住むお菓子の家へとたどりつきます。心配した両親は子供たちを探しに森へ。兄妹は魔女を退治した後、両親と無事再会してハッピーエンドを迎えます。

 オペラでは、貧しい一家の「子供の口減らし」という暗いテーマは、きれいさっぱり一掃されています。オペラの初演は1893年12月23日、ドイツのワイマールででした。

 現代でも童話がソフトに改変される例は多くみられますが、すでに19世紀末のドイツでも同じように考えられていたことがよくわかります。オペラ劇場に子供たちを連れてくる両親にとって、「食糧がないから森に子供を捨てる親の話」など歓迎されなかったのでしょう。

 大作曲家であり名指揮者でもあったリヒャルト・シュトラウスの指揮で初演されて以来、このオペラはたちまち大成功を収めました。なんと最初の1年間に50以上の劇場で上演されたというのですから、まれに見る大ヒットといえるでしょう。

 音楽的にも親しみやすく、オペラになじみの薄い大人にとっても安心して聴ける作品になっています。子どもを捨てる親が登場しない、オペラ版「ヘンゼルとグレーテル」。親にとって都合がよすぎるでしょうか?

今回のDVD メトロポリタン・オペラDVD
フンパーディンク:歌劇「ヘンゼルとグレーテル」
 

メトロポリタン・オペラDVD  フンパーディンク:歌劇「ヘンゼルとグレーテル」

発売元 EMI MUSIC JAPAN
演奏 リチャード・ジョーンズ演出、アリス・クーテ、クリスティーネ・シェーファー、ウラディーミル・ユロフスキ指揮メトロポリタン・オペラ・オーケストラ
URL http://www.amazon.co.jp/dp/B001KAJLJA

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親子で楽しむクラシック(第20回)-フォーレ:組曲「ドリー」

文=飯尾 洋一(音楽評論家)

親子で楽しむクラシック(第18回)- 子供のために書かれたピアノ曲といえば、以前にこの連載でもご紹介したドビュッシーの「子供の領分」がよく知られています(親子で楽しむクラシック(第3回 )- 子供のための名曲)。

 今回、紹介するフランスの作曲家、ガブリエル・フォーレが作曲した組曲「ドリー」も、同じように幼い子供のために作曲された作品です。こちらはピアノ連弾のための組曲。実際に連弾で弾いてみたことがあるという方も、少なくないのではないでしょうか。

 「ドリー」とは、フォーレが親しくしていたバルダック家の幼い娘、エレーヌの愛称です。エレーヌが誕生日を迎えるたびに、フォーレは曲を贈り、この6曲からなる組曲が誕生しました。

曲を試聴する(NAXOS MUSIC LIBRARYより)
ガブリエル・フォーレ「ドリー」:http://ml.naxos.jp/work/3184434

 エレーヌの母親は、エンマ・バルダック。この名前に覚えのある方もいらっしゃるかもしれません。 エンマ・バルダックとは、後にダブル不倫の果てにドビュッシーと結婚した銀行家夫人であり、歌手でもあった人です。ドビュッシーの「子供の領分」は、彼とエンマとの間に生まれた娘のために作曲された作品でした。

 エンマは、かつてフォーレとも愛人関係にあったといわれています。フォーレはエンマのために歌曲集「優しい歌」を作曲し、またエンマの娘エレーヌのためには、この「ドリー」を作曲しました。フォーレはエレーヌのことをかわいがっていたために、「エレーヌは、実は夫ではなくフォーレとの間との子ではないか」などとという、根も葉もない噂まで立ちました。

 つまり、エンマ・バルダックという女性は、一人でフォーレの「ドリー」と、ドビュッシーの「子供の領分」という、わが子のために書かれた二大名曲を間接的に生み出したことになります(それぞれ父親は違うわけですが)。この場合、両作品は「姉妹作」の関係にあるといえばいいのでしょうか。あるいは、「異父姉妹作」とでも?

 フォーレの「ドリー」のなかには、猫らしきもの? が登場します。2曲目の「ミーアーウー」はネコの鳴き声、4曲目の「キティ・ワルツ」は子猫のワルツでしょうか。

 しかし、これはいずれも出版社の勘違いが生み出した「幻の猫」。2曲目の本来の題はまだ幼いエレーヌが兄ラウルを呼ぶときに、「メッスュ・アウル」と舌足らずになるのを表現したものでしたが、これを出版社が猫の鳴き声と受けとって「ミーアーウー」と直してしまいました。

 第4曲は、兄ラウルの飼っていた犬ケッティにちなんで「ケッティ・ワルツ」と題されていましたが、これも出版社が「キティ・ワルツ」に訂正してしまいました。兄と犬が2匹の猫に化けてしまったわけですが、でもなんとなく猫だと思って聴くと猫のようにも思えてくるのが音楽のおもしろいところですね。

アルバム
タイトル
フォーレ:組曲「ドリー」
演奏 ロバン=ボノー(ジャクリーヌ) ジョワ(ジュヌビエーブ)
URL http://www.amazon.co.jp/dp/B001QTMSW2

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